7月2日、落語家の桂歌丸が、慢性閉塞性肺疾患で亡くなりました。
晩年、すでに酸素吸入器を着けた姿が見られていましたが、なんとか一緒に笑点を盛り上げてきたメンバーたち。
桂歌丸の死後初めて、7月8日に放送された緊急追悼版「笑点」や、7月12日の「ミスター焦点 桂歌丸師匠追悼特番」では、メンバーはしんみりすることなく、いつも通り明るく笑いを集める姿が印象的でした。
この姿は視聴者からも好感が寄せられました。
もちろん、それは不謹慎にならないいような一人ひとりのファインプレーやテクニック、チームプレーが土台にあったからでもあります。
振り返ってみれば、落語家やお笑い芸人たちは仲間の死に葛藤しながらも、あえて「笑い」に転換してきました。
笑点メンバーは「真の芸人」?
笑点の放送がスタートしたのは1966年のこと。
それから50年以上にも渡って視聴者を楽しませてきましたが、「不謹慎」のボーダーラインについても模索していました。
例えば日本のどこかで大惨事が合った時、何を言ってもやっても不謹慎とされやすいため、エンタメジャンル全てが自粛ムードになるのが普通でした。
しかしそんな中でも笑点は、何事もなかったかのように、通常通り笑いを提供します。
これは逆効果どころか、後になって被災地の人たちからも「ありがたかった」と感謝されることさえあったのです。
林家木久扇は、桂歌丸が亡くなった後の笑点の収録でこう語っています。
林家木久扇:「大切な人が亡くなった事実と笑いを結びつけて放送するのが、いかに大変なことか実感しました。
心中は悲しさであふれていても、外側ではヘラヘラ笑っていなければならない。芸人というのは本当に複雑な立場なんだなと思いました。」
春風亭昇太が番組で、「笑点ですからしんみりせず、明るくポップに仲間の死を送りたい!」と話していたように、いかなる時でも笑点の軸がブレないように、「笑い」に徹底的にこだわる番組ということが、今回の事でまたひしひしと伝わってきたのです。
桂歌丸と言えば、初期の笑点からレギュラー出演していた貴重なメンバーでした。
2006年から「笑点」50周年の2016年までの10年間は、司会者として番組を仕切ってきました。
司会者に君臨してからというもの、過激なメンバーいじりなども歌丸独自の持ち味として、親しまれてきました。
桂歌丸:「笑いのためなら俺を墓場に入れてもいい」
笑点では、時々メンバー同士でいじりあうのもお決まりの流れ。
それも笑点ならではのおもしろいところで、長く根強い人気を誇る理由の一です。
例えば5代目三遊亭円楽さんは「馬ヅラ」、「若竹潰れる」ネタでいじられ、6代目円楽の「腹黒」ネタ、林家木久扇の「先に回答を言われる」、「木久蔵ラーメンまずい」でいじられるなど、一人ひとりいじられネタがあります。
歌丸が病と闘いながらも司会者をしている時も、メンバーから「今にも死にそう」、「骸骨」
「ハゲ」、「恐妻の富士子夫人」など、不謹慎のボーダーぎりぎりのブラックないじりで笑いを誘う事もしばしば。
円楽が桂歌丸を司会とひっかけて「遺骸」と表現すると、桂歌丸も円楽に「腹黒い」と言い返すなど、犬猿の仲である2人のバトルも番組を盛り上げていました。
7月8日に放送された笑点で桂歌丸との思い出話になると、「やりすぎて世間に浸透しちゃった」と、本来は不仲でなかったものの、笑点で不仲をアピールしすぎて、そのようにとらえられてしまったというエピソードも暴露します。
地方公演の時もあえて歌丸と距離をあけて不仲の演出をするなど、徹底して笑点の番組を支えていたというのです。
プライベートでは、歌丸自らが体にトイレットペーパーを巻き付けてミイラに扮したこともあるなど、おもしろ懐かしいエピソードも話してくれました。
以前林家たい平が「笑いがとれるなら俺を墓場に入れたっていい」と桂歌丸にアドバイスされたことを明かしたように、桂歌丸は義理や人情よりも、とにかく「笑い」を最優先していたのです。
笑点を沸かせ、桂歌丸に尊敬の念を表したメンバー
桂歌丸の訃報を受けて放送された7月8日の「笑点」では、早速桂歌丸をテーマにした大喜利が披露されました。
円楽を筆頭に、桂歌丸と「死」を結びつける定番の「不謹慎ネタ」を、堂々と吐き出し、笑いを誘いました。
7月12日に放送された「ミスター笑点 桂歌丸師匠追悼特番」でも、木久扇が「私は50年以上の付き合いになるんですけど、一度もごちそうしてもらったことがないんですよね。だからごちそうしてもらいたかったです。終わり。」と、コミカルなコメントで会場を沸かせました。
座布団運びで知られる山田隆夫が思わず涙してしまうと、同じく木久扇は「泣かないのっ!め!」と子どもを諭すように声をかけて、とことん笑いを引き出しました。
普通の感覚なら「不謹慎だ!」と非難の声を浴びせられそうですが、笑点メンバーたちは歌丸師匠の死さえも、「笑い」に転換し、桂歌丸に精一杯のリスペクトを表現したのです。
発言はブラックでも笑点だとどこか憎めず、むしろ明るく微笑ましい気分にしてくれます。
メンバー同士の絆や愛情、そしてプロ根性を感じますね。