夜行バスの造りは、座席が3~4列がスタンダードです。
中には車両の両側に1席ずつ置いた2列のシートも見られます。
しかし、全部座席が2列になっているバスは、座席数がその分減ってしまうため少ないのが現状です。
マイ・フローラは1台にたった12席?ほぼ個室のプライベート空間でゆったり
そんな珍しいバスの1つが、東京~徳島間で運行されている「マイ・フローラ」です。
1台にわずか12席だけしかありません。
全席、通路側には天井まで届く仕切りが設置され、ほぼ個室に近い空間が確保されています。
このような夜行バスは2011年に登場し、当時は珍しかったため多くのメディアに特集されました。
日本1豪華なバスト表現したところもあったくらいです。
車内にはカーペット。土足厳禁。
バスの車内にはカーペットが敷かれているため、乗客は靴を脱いで乗車できます。
このバスを運営している海部観光(徳島県美波町)によると、長時間の乗車中にも気軽に寝がえりが打てるよう、座席の幅は普通のバスよりも2倍のスペースをとっています。
リクライニングの角度や座り心地にもこだわり、地元の家具メーカー・徳島阿南と共同製作したという徹底ぶり。
料金は片道13000円で、並行路線の中では高級です。
それにも関わらず、平日でも平均乗車率は90%をキープ。
インターネットでは、マイ・フローラに乗ってみてどうだったか、体験談も掲載されています。
- ・乗客のレポート
「せっかくだから起きているつもりだったのに、居心地が良くてつい眠ってしまいました。」
乗客からは「熟睡できた」という声が多く、いかに気持ちの良いリラックス空間かということがわかります。
個室のようになったプライベート空間もそうですが、揺れが少ないこともぐっすり眠れる要因です。
実は揺れが少ないのには、ワケがありました。
マイ・フローラの運転手は全員、揺れないような運転の訓練を受けていたのです。
揺れない運転の訓練ってどんな訓練?
揺れない運転をできるようにするには、どのような訓練をすればいいのかというと…
500mlのペットボトルに水を半分入れて、倒さないように運転するという訓練です。
倒さないようにするには、アクセルをそっと踏むこと、そして繊細なブレーキの操作が決め手となります。
力の加減が大事ということですね。
普通の車でも、揺れないように運転するのにはそれなりの特訓が必要で、いきなり「揺らすな」と言われても、ほとんどのドライバーは脱落してしまうでしょう。
さらに、そっと運転するためにも、靴や靴下を脱ぐ運転士がほとんどだと言います。
靴や靴下を脱いで運転することにより、アクセルやブレーキの踏みこみを調節しやすくなるからです。
また、海部観光の新米運転士は研修では、揺れない訓練を実施して4人の先輩運転士の合格が出たら、晴れてデビューとなります。
といっても合格までの道のりは早くなく、1年以上かかる社員もいるため、決してすぐ慣れるような訓練ではありません。
海部観光について
海部観光は1996年に創業し、高速ツアーバスに参入した比較的新しい会社です。
創業者は打山昇さん。
元々バスの運転手として働いていて、現役時代は他のバスから降りてきた乗客たちが疲れた顔をしているのが心配だったと言います。
このため揺れない運転を目指し、バスの中でもリラックスして乗客に熟睡してもらえることを目標とします。
試行錯誤して、どうしたら揺れないか探ってみた結果、「靴を脱ぐ」というのが効果的だという独自のコツを発見します。
そしてこれが本当に揺れない運転に効果的だったのか、
「打山さんが運転するバスは山道でも酔わない」
と、乗客からも絶賛されるほどになりました。
会社内では、靴を脱いで運転するのは危険という意見もあったでしょう。
しかしながら、靴を履きながらではペットボトルを倒さずに運転するのは困難という運転士も他にいて、結局靴を履いているか否かに関わらず、運転の質を落とさなければいいというルールが定着しました。
ただ、実際は靴を履いて運転のクオリティを高く保てるドライバーは少ないと言われています。
靴を脱いで運転することに慣れてしまったドライバーは、プライベートで自家用車を運転する時も、靴を脱がないと落ちつかないという人もいるくらいです。
ちなみに道路交通法などでは、運転中の履物の種類について規定されていても、靴を履かずに運転することについては、特に制限されていませんでした。